アイカツフレンズ (3DCG) に足りなかったもの
撮影技術と演出?
映像を撮影するのはカメラですが,ひとくちにカメラと言ってもカメラを構成しているレンズの諸々のパラメータによって撮影する画には非常に大きな差が生じます.
始めは焦点距離に関して.
カメラのズームはレンズの焦点距離を変化させることによって行なわれています.焦点距離の単位はmm(ミリメートル)です.
ズームアップは焦点距離を長くして大写しの画面を撮影すること(望遠),
ズームバックは焦点距離を短くして被写体から遠ざかるように撮影すること(広角)です.
現実世界ではカメラの位置がある程度制限されるので,それを補うように焦点距離を調整して写真を撮りますが,CGのカメラ位置はいくらでも好きなように調整できるためそれぞれの特徴を把握して使い分けをする必要があります.
はじめに,望遠と広角それぞれの特徴について解説します.
望遠の主な特徴
・圧縮効果を得ることが出来る
圧縮効果とは,望遠レンズで撮影した時に背景が近くに映る現象で,望遠は主にポートレート写真など人物撮影にも向いています.
広角の主な特徴
・非常に強い遠近感
この遠近感が曲者で,近くのものはより大きく,遠くのものはより小さくに見える効果のことなのですが,これに起因して強い歪みも発生してしまいます.
例えばこのリンク先に載っている同じ人物をそれぞれ違う焦点距離で撮影した時にどのような差異が生じるかを検証している画像を見てもらえば一発ですが,焦点距離が大きいほど顔は平面的に,焦点距離が小さいほど歪むことがわかります.
望遠すぎると圧縮効果で平面になり過ぎて違和感,広角は普通に歪んで違和感が生じるので,人物の顔は主に(中)望遠レンズで撮ると良いと言われています.
つまり,3DCGのライブではそれぞれの特徴を活かしながら撮影を行わないと,キャラクターの顔や手が歪みます.
例えばこんな感じに
顔の近くに手があるときは普通に見えるのですが,手を前に差し出すと広角の特徴である「近くのものはより大きく,遠くのものはより小さく」見えてしまい,手が大きく見えています.ここまでなら,まあ手を差し出すとこで手を強調する演出もありと思いますが,さらに進めると
原理は省略しますが,広角レンズは中心から離れるほど歪むので手の大きさがとんでもないことになっています.
また,広角で撮影した顔と望遠で撮影した顔もかなり違います.
上で挙げたリンクの焦点距離毎の写り比較とほぼ同じ結果です.個人的には望遠で撮影した右のほうが可愛いと思うのに加えて,広角だと画面の周囲と中心で大きさが変わるため,キャラの位置によって顔が変わるのが気になるので広角はあまり使って欲しくありません.
中央の時の顔と端の時の顔,歪みがわかると思います.
先述の通り3DCGのカメラ位置は好きな位置に配置できますし,観客の真上で望遠レンズを使って撮影してもいい訳ですから,わざわざ広角でキャラの目の前で撮影する意図があまり分からないんですよね.何故でしょうか.ステージの広がりか広さを表現したいとか?(フレンズでは焦点距離を使い分けていない訳ではないのですが,後述の無印よりかは特徴を活かしきれていない感じがします.)
逆に,この歪みを演出として活かすことができればより良いライブステージになると思います.
例えば,ミエルミエールなんかは蹴りやガニ股のところで足を歪ませて大きく写す演出でライブ映像を構成しています.
ミエルミエールとかも広角使ってるきがするんですけどゆがませる部分は足とかその辺なのでその辺が演出の差なんかなあとおもったりした おわり pic.twitter.com/SqCVHcjpy2
— 毛玉 (@kazukiti_28) February 6, 2020
オンパレードはライブ見てなかったので知らなかったんですけどサンメガミは広角の乱用をやめて中望遠が主,みおちゃんのキックで広角と言うミエルミエールみたいな演出だったようです.オンパレードではサムライピクチャーズの息が強めにかかったか,元スタッフだけでもきちんと使い分けられるようになったか知りませんけど.
他にも,ズームアップ/ズームアウトしつつ,被写体の大きさが変わらないようにカメラ位置を調整しながら撮影すると次のような面白い効果(ドリー・ズーム)を得ることができます.
ドローンによりカメラを被写体である人から遠ざけつつ、レンズの倍率を徐々に上げて撮影した動画。 https://t.co/Cua6AK3NOD 人はほぼ固定され、遠景だけ倍率が変わっていく不思議な効果を得ている。ヒッチコックの映画で有名になったドリー・ズームと呼ばれる技法で、以前は台車を用いて撮影された。 pic.twitter.com/QhmKVz2UEX
— Oguchi T/小口 高 (@ogugeo) December 29, 2018
例えば,永遠の灯のライブはこの効果を活用しています.
被写体の大きさが同じになるように距離を調整しつつ焦点距離を短くするとこんな感じに背景がどんどん小さくなる感じで面白い演出になる pic.twitter.com/McrNPvbFq3
— 毛玉 (@kazukiti_28) February 5, 2020
他にも,有名どころだとジョーズにこのような効果が用いられています.また,これとは少し違いますが似たようなものとしてサカナクションの夜の踊り子って曲のPVも,背景は同じに映るようにしながら,山口一郎の大きさがどんどんデカくなると言う面白い演出になってます.
プリチャンでも,完全に被写体の大きさは固定されていませんがキューティ・ブレイキンでドリー・ズームっぽいのを使っていたりします.
イントロではズームアウトしつつカメラとモデルまでの距離を詰めて,
ドリー・ズーム① pic.twitter.com/C6ABoFMlCa
— 毛玉 (@kazukiti_28) April 28, 2020
アウトロは一旦引きの画にした後,一気にズームをしつつ,被写体の大きさが徐々に大きくなるようにカメラを動かし決めポーズまで持って行ってます.初めてこのライブシーンを見たとき,演出とカメラワークが凄すぎて感動してしまいました.
ドリー・ズーム② pic.twitter.com/iWdHUJWWC5
— 毛玉 (@kazukiti_28) April 28, 2020
焦点距離に関しては以上で終了です.
次は,レンズの絞りに関してです.
昔のフィルムカメラはシャッタースピードとレンズの絞りの2つが撮影に関するパラメータでした.
シャッタースピードは名前の通りシャッターを開いてフィルムに感光させておく時間です.では,絞りとは一体何でしょうか?
正解は,レンズを通る光を制御するものです.
通常のレンズには絞り羽根という機構が組み込まれており,おおよそ人間の瞳孔と同じ役割を果たします.つまり,暗い場所では絞り(瞳孔)を開いてより多くの光を取り込み,明るい場所では絞り(瞳孔)を絞り込んで取り込む光の量を制限することで白とび(眩しくない)させなくする,と言った制御を昔は行なっていました.
最近のデジカメでは絞りを自分が直接調整して撮影するという流れではなく,カメラが自動で適切な値を判断し,レンズのモーターが適切な絞り値に設定をしてくれるために意識する人は少ないかもしれませんが,この絞り値は単に光を通す量を調節するだけに止まらない効果があります.
それは,ピントを合わせている面以外のボケ量です.
絞りを開放している時はピントを合わせている部分以外がかなりボケます.逆に,絞っている時はピントが合う範囲がかなり広くなります.
(ちなみに,ピントが合う範囲はレンズの焦点距離に依存しています.広角レンズは微妙にピントを外していてもそれなりに映りますが,望遠レンズはこのピントが合う範囲が非常に狭いのでシビアなピント合わせになります.余談ですが,写ルンですのようにピントを合わせる必要がないカメラは,絞りを絞っている広角レンズが付いているためにピントが合う範囲が広い=ピントを合わせる必要がない,と言うことになります.)
この効果を活かして,被写体のみにピントを合わせて背景を大きくボカすと言ったような表現があります.これには映したい対象を際立たせる効果があり,うまく活用する事で印象的な映像の撮影が可能になる非常に重要なパラメータです.
現実世界だと絞りの値はその場の明るさに依存しますが,3DCG上であれば明るさは自由自在ですから絞りは好きな値に設定できます.
例えばアイカツ!のチュチュ・バレリーナは氷上スミレ/黒沢凛の2人曲ですが,それぞれを強調するようにスミレちゃんにピントを合わせ背景の凛ちゃんをボカしたり,その逆だったりと演出の工夫が随所に見られます.
また,時間の経過と共に絞りを開放して,だんだんピントが合う範囲を狭くすると言った技法も使われており,
チュチュ・バレリーナ① pic.twitter.com/g2DnksycVH
— 毛玉🎀 (@kazukiti_28) May 1, 2020
こんな感じでだんだん凛ちゃんがボケてスミレちゃんだけにピントが合うようになっています.(フレンズではBelieve Itでも歌っているキャラだけにピントを合わせるような演出が見られますが,時間の経過とともにピント範囲を狭くするといったようなことはされていないのでまだ弱いと感じます.)
また,焦点距離によってピントが合う範囲が全然違うと言う話は,
望遠だとピントが合う範囲が狭い=背景のステンドグラス(?)がボケる,広角ではピントが合う範囲が広い=ボケている場所がない
と言った感じです.
また,これは絞りは関係ないのですが,同じカットでピントをズラすと注目対象が移動するので,
このように凛ちゃんがスミレちゃんの方を見る演出を際立たせています.
ピント繋がりですが,アイカツ!のライブCGはピントをズラしてすぐ戻したり,カメラをブレさせたりする演出がたくさんありましたが,それも今は見られません.
なんというか,フレンズの撮影技術は等速直線運動,等加(減)速移動といったような,計算されたカメラワークをしていて拘りが見えてきません.カメラの始点と終点を指定して,Autoで動かしているような,そんな感じ.
Girls be ambitious!は例外でしたが,曲のビート,拍をベースとしたシーン切り替えもあまり見られず,3Dライブシーンを見ていても盛り上がれません.
カメラの動きと言うのは案外重要で,同じ振り付け,同じ曲,違うカメラワークと違うキャラのステージが存在する永遠の灯で比較すると,カッコ良さ全開のユリカver.では
カメラの動き① pic.twitter.com/f5KaG2SJAo
— 毛玉🎀 (@kazukiti_28) May 3, 2020
ピントをずらしてすぐ戻す,カメラのブレなどのかっこいい演出が多めです.そのぶん振り付けがよく見えませんが,それを上回る効果があれば十分だと思います.
次に,あかりver.では,
カメラの動き② pic.twitter.com/Ujha4Ceozg
— 毛玉🎀 (@kazukiti_28) May 3, 2020
あかりちゃんはカッコいい/クールキャラじゃないのでカッコいい演出も控えめでしょうか.そのぶん振り付けが見やすくなっていますが,やはりカッコ良さ(ノリやすさ)の点では弱く見えます.
このように,どちらが良いなどは置いておいても,振り付けが違うだけで印象が大きく異なることがわかると思います.
対してライバルのプリチャンでは,歌はもちろんのこと,拍もベースとした振り付け,シーン切り替えで視聴者のノリを上げてくれるようなライブ,要はダンスがハードな代わりに,とても見ていて気持ち良いライブ映像になっています.(これは見てくれればわかります.ミラクルコースター/COMETIC SILHOUETTE/La La Meltic StArなど)
こんな感じで,今のアイカツ製作陣が一体どういうライブシーンを作りたいのかはわかりませんが,先代やライバルが色々工夫してやってるので頑張っていただきたいです.
ここまで書いておいて何ですが,映像制作者が有名なこれらを知らないわけがないと思うので,きっと何かしらの理由があって広角でキャラ1人を写したり,手を歪ませたりしているんだと思います.多分.